【相談の現場から】台風、自然災害にまつわる労務管理上の対応

今年も台風シーズンが到来しました。
近年、全国各地で「観測史上初」の豪雨、地震や台風による被害が毎年のように発生しており、自然災害による事業活動への影響の対策の必要性を改めて感じられている企業の方も多いのではないでしょうか。
もちろん問題は労務管理にも及びます。

台風接近時等の出勤命令と安全配慮義務

台風や地震などの災害発生時に出勤命令を出すか自宅待機や休業とするかは判断が分かれるところです。しかし、無理な出勤を指示することによって安全配慮義務違反を問われる恐れもあります。

事業主は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう配慮する義務があります。(労働契約法第5条
<安全配慮義務を判断する3条件>
  • 予見可能性
  • 結果回避義務
  • 因果関係
この3つの観点から安全配慮義務違反を判断します。

事業主がこの義務を怠り、労働者に損害を生じさせたときは、その損害を賠償しなければならないこととされています。さらに、この損害賠償は、労災認定による補償と並行して請求されることがあります。
大型の台風接近時に出勤を命じる際には、安全配慮義務の観点から「安全に出勤できるか」ということも考える必要があるでしょう。

事業活動の一時休止と賃金の保障

河川の氾濫や浸水などが起きると、操業停止や営業中止などにより、被災企業のみならず、関連する企業の事業活動にも多大な影響が及びます。
また、台風や地震などに被災した企業は、事業の休止や廃止を余儀なくされ、従業員への対応で検討しなければならないこともあります。

労働基準法では「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」(第26条)と定めています(休業手当の支払義務)。
しかし、台風や地震といった自然災害は不可抗力であり、「使用者の責に帰すべき事由」には該当しません。 したがって、自然災害により事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、原則として、休業手当の支払義務はないことになります。

※未払賃金立替払制度

労災保険に加入している企業で、被災したことにより、事業活動を停止し、再開の見込みがなく、労働者への賃金や退職金の支払いが不能となるなど事実上倒産に至った場合には、国が事業主に代わって未払賃金の一部を立替払いする「未払賃金立替払制度」を利用することができます。最寄りの労働基準監督署に相談してみましょう。

※非常時払い

被災して一定期間休業する場合であっても、そこで働く被災労働者の生活にも配慮しなければなりません。労働基準法では、労働者が出産、疾病、災害等の非常の場合の費用に充てるために請求した場合は、使用者は、賃金支払期日前であっても既に行われた労働に対しては賃金を支払わなければならない、と定めています(第25条)。この規定は自然災害発生時にも適用され、休業手当の支払いの必要があるか否かを問わず、労働者から請求があれば、被災前の既往労働分に対する賃金の支払義務が生じます。

遅刻・早退、欠勤と年次有給休暇

被災は避けられても、自然災害による公共交通機関の乱れにより、労働者が欠勤せざる得なかったり、遅刻・早退したりする場合があります。このような場合の賃金の取り扱いは、会社の定める就業規則によります。
原則として、早退などを命じた場合以外の時間については、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき時間相当分を控除することは違法ではありません。しかし、こうした場合の遅刻の賃金控除は酷では、ということもありますので、遅刻扱いとはせず、賃金控除しないとする会社も多いでしょう。
なお、前述のような事情による欠勤について、年次有給休暇の取得を一方的に命じることはできません。年次有給休暇は、原則として、労働者の請求を前提として付与するものです。年次有給休暇の取得とする場合には労働者と話し合わなければなりません。

復興のための時間外労働・休日労働

原則、労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合、会社は「時間外及び休日労働に関する協定」(36協定)を締結し、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。しかし、災害その他避けることができない事由により時間外・休日労働をさせる必要がある場合は、36協定によるほか、協定がない場合であっても所轄労働基準監督署の事前の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができます(第33条)。 
したがって、36協定を締結していない場合であっても、被災した工場や店舗などの早期復旧のために労働者に臨時的な時間外労働や休日労働をしてもらう場合、または被災地域外の他の企業が被災地企業の協力要請に基づく支援に伴い時間外労働や休日労働を行う場合には、労働基準監督署に事前の許可または事後の届出をしておくことが必要です。


台風や長雨の起こりやすい時期、何事もないことを願うばかりですが、
労務管理上は、そのような事態も想定して、事前に対応策を検討しておくことが重要です。
この機会に、自社の就業規則や安全管理体制を確認しておきましょう。
その他、就業規則の見直しや、労務管理についてのご相談も随時承っております。
当法人担当者までお気軽にお寄せください。
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